痛み外来について

Pain Clinic

<目次>
1.乳房切除後疼痛症候群
  乳房切除後疼痛症候群とは
  ・乳房切除後疼痛症候群の治療方法
  カテーテルによる血管塞栓術
  筋膜ハイドロリリース
.帯状疱疹後神経痛
  ・帯状疱疹後神経痛とは
  ・帯状疱疹後神経痛の治療方法
.肩関節周囲炎
  肩関節周囲炎とは
  肩関節周囲炎の治療方法
  カテーテルによる血管塞栓術

1.乳房切除後疼痛症候群

乳房切除後疼痛症候群とは

乳がんによる乳房切除後に疼痛が持続する状態です。原因は、神経への刺激によるもの、慢性炎症によるものに大別され、疼痛は創部や脇の下、二の腕の内側に発生します。

65歳未満の比較的若年の方、乳房全的術よりも乳房温存術を受けられた方、腋窩リンパ節の郭清を受けた方、手術後すぐに痛みが出た方や放射線治療をされた方に発症しやすく、手術後10年経っても2割くらいの方が悩まされているという報告されています[1]。

乳房切除後疼痛症候群の治療方法

  1.適切な鎮痛薬の服用

  2.運動リハビリテーション

上記の2つが基本です。しかしながら、薬の副作用のために内服治療が継続できない場合や、上記の基本処置では疼痛が制御できない場合には、カテーテルによる血管塞栓術を選択します。また、肩関節の可動域制限が認められた場合には、肩甲骨部の筋と上腕筋の筋膜ハイドロリリースを行います。


*筋膜ハイドロリリース:筋膜の癒着により可動域制限、疼痛が生じている場合、超音波を使用して筋膜間に生理的食塩水を主成分とした液体を注入して筋膜の癒着を剥がすこと

カテーテルによる血管塞栓術

慢性炎症が生じている部位には病的な血管が形成されていることが多く見受けられます。一部の血管では動静脈廔が形成されており、それらを塞栓することで疼痛改善を得ることができます。切除された乳房、脇の下、上腕の内側には、同側の内胸動脈や外側胸動脈などが栄養しており、これらの血管に細いカテーテルを進めて、その先端より粒子を対象血管に注入します。適切な塞栓物質量により閉塞させます。

カテーテルを手首もしくは足の付け根の動脈より挿入し治療します。手術時間は30分程度です。主な合併症は、穿刺部位の出血や腫脹や疼痛で、少量の造影剤を使用しますので造影剤アレルギーが発生することもあります。

治療効果には、個人差がありますが、多くの方が数週間で痛みが軽減されます。

カテーテルによる血管塞栓術【図1】

筋膜ハイドロリリース

筋膜とは筋肉を包み込む薄い線維のことです。慢性的に生じた炎症のため、もしくは術後の可動域制限のために生じた拘縮により隣り合う筋肉の膜同士が癒着して疼痛を引き起こします。肩関節の動きと疼痛部位により様々な部位の筋膜ハイドロリリースを行うことがあります。例えば、腕を上にあげる動作に制限があり、疼痛が生じるならば、棘下筋と僧帽筋の筋膜ハイドロリリースを行います。生理的食塩水にごく少量の麻酔薬を付加した液体を、極めて細い針で注入します。超音波装置を使って、筋膜が剥がれていく様子を確認しながら治療します。1部位あたりの所要時間は2分程度で、主な合併症は出血、腫脹、疼痛です。

筋膜ハイドロリリースの超音波画像【図2】

① 筋膜ハイドロリリースの様子
  ※超音波(エコー)をあてて画像を見ながら注射を行います。
②筋膜リリースの方法
③筋膜ハイドロリリースの前後比較画像

 2.帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹後神経痛とは

帯状疱疹治癒後に続く症状(疼痛)のことを指します。帯状疱疹の合併症として、最も頻度が高く、帯状疱疹発症3ヵ月後で7~25%、6ヵ月後で5~13%の人に発症します[2]。

[2] Thyregod, H.G. et al.:Pain 2007; 128(1-2):148

治療方法

内服薬の効果が不十分だったり、副作用のため服用が困難な方に対して痛みの範囲や年齢を鑑みて、カテーテルによる血管塞栓術が有効なことがあります。

帯状疱疹後神経痛の範囲を支配する血管に、極めて細いカテーテルを通して塞栓物質を注入します。血管塞栓により疼痛原因の慢性炎症を改善させることが期待できます。

3.肩関節周囲炎

肩関節周囲炎とは

俗に言う「五十肩」、「四十肩」で、一定の年齢になると、急に腕が上がらなくなって、肩関節が痛くて日常生活に支障をきたすような場合もあります。

肩関節周囲炎は、様々な理由で肩関節を覆う膜の炎症です。

炎症は、赤く腫れている状態なので、超音波で肩関節を観察すると血流が亢進して(赤くなる)、水分が多くなる(腫れている)様子を観察することができます。【図4】

診断と病状は、理学的所見(腕の挙上の様子など)に加え、超音波、X線撮影、MRIなどを用いて評価します。肩関節周囲炎には、炎症期と拘縮期の2つの病期に分かれています。炎症期は、肩関節周囲炎の始まりで「痛い」時期で、拘縮期は炎症が治まってきて「動かない」時期です。

肩関節周囲炎の治療方法

当院では、関節内の注射とリハビリテーション、鎮痛薬の内服による治療に加えて、超音波をもちいて炎症を観察し、適所に注射薬を投与したり、カテーテルでの血管塞栓術を施行することが可能です。

【炎症期の治療】

・関節を包む膜周囲に少量のステロイドを投与して炎症を抑える注射

・肩関節内にステロイドを投与する注射

・鎮痛薬の内服

・カテーテルによる炎症性血管の塞栓術

【拘縮期の治療】

・関節を包む膜周囲に少量のステロイドを投与して炎症を抑える注射

・肩関節内にヒアルロン酸を投与する注射

・肩関節の受動運動(いわゆるリハビリ)

カテーテルによる血管塞栓術

手首や足の付け根の動脈よりカテーテルを挿入し、肩関節に栄養している血管のうち、病的な新生血管【図5】を選択します。細いカテーテルを通して血管を塞栓する物質を投与し、病的な新生血管を詰めてしまいます。片側に、30分程度かかります。術後は、個人差がありますが、数週間で痛みが軽減します。

【図5】肩関節周囲炎の病的新生血管

参考文献

[1] Macdonald L, et al.:Br J Cancer.2005;92(2):225-30.

[2] Thyregod, H.G. et al.:Pain 2007; 128(1-2):148

外来のご案内

当院では毎月第2・第4月曜日(午前診察のみ)に痛み外来を行っております。

予約は【診療予約】よりお願いいたします。

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