Column
脳とからだの負担を最小化する神経内視鏡手術 ~より低侵襲に 、より明瞭に~
Author :東京Dタワーホスピタル 脳神経外科 東京頭蓋底・内視鏡センター長 岸田悠吾

神経内視鏡手術とは
顕微鏡手術の限界と内視鏡手術の展開
詳細な観察と繊細な操作が要求される脳神経外科では多くの手術を顕微鏡下で行います(図1A)。
これらはマイクロサージャリー(微細手術、顕微手術)と呼ばれ、例えば基本手技の―つである脳血管バイパス術では0.5mm径程度の血管を、太さ0.02~0.029mm径の糸で縫合してつなぐという細かさです。
過去数十年間、高機能な手術用顕微鏡が開発され、頭のさまざまな部位を観察するためのテクニックが編み出されることによって、多くの疾患が治療可能となりました。脳神経外科は「見る」ことを追求して、顕微鏡とともに発展してきたのです。

しかし近年、より高度で低侵襲な手術が求められるにつれて、顕微鏡手術の限界が認識されるようになってきました。頭の外から観察する顕微鏡手術では深部になるほど死角ができやすく、拡大率にも限界があるのです。
また、顕微鏡手術では手術部位の観察が直線的となるためどうしても頭蓋骨を大きく開けたり、手前の組織を牽引したりしなければなりません。(図2)

術野としては地上に立って遠くのものをみるイメージ。
このことは腫瘍の取り残しや脳・血管の牽引損傷、見た目のキズの大きさといったマイナス面につながり、より低侵襲で、より明瞭に「見る」ことのできる技術が求められるようになりました。
このような顕微鏡の弱点を補完するように発達してきたのが内視鏡手術です。(図3)

内視鏡は接眼レンズのついた鏡筒やカメラを病変のそばまで入れることで、その名の通り、頭の中から観察する(内視する)光学機器です。
深部でも明るく、拡大された詳細な観察が可能で、魚眼レンズ効果により広角な視野が得られるため、顕微鏡手術のように手前の組織をおさえつけて直線的に観察する必要がありません(図4) 。

手前の組織への牽引も少ない。術野はドローンによる俯瞰図のイメージ。
小型化が必要な脳外科領域では技術的問題から内視鏡手術の普及が遅れてきましたが、デジタル技術の発達によって細径内視鏡でも飛躍的に画質が向上し、脳神経外科の手術手法にブレイクスルーといえる革新をもたらしています。
本稿では当院の特徴である神経内視鏡手術のなかから、内視鏡下鍵穴手術と経鼻内視鏡手術をご紹介していきます。
内視鏡下鍵穴手術と経鼻内視鏡手術
内視鏡下鍵穴手術:低侵襲性と安全性の両立を実現
一般的な開頭顕微鏡手術の数分の一の開頭サイズや皮膚切開で行う手術です。
例えば前頭部の病変に対して、一般的な手術では耳の前からおでこに沿って正中を超えるまで皮膚切開し、前頭側頭部にわたる開頭を行いますが、鍵穴手術では眉毛部や毛髪線内のわずか4~6cmの皮膚切開と2.5x3cm程度の小開頭により、腫瘍摘出術など高度な手術を完遂します(図5) 。



大きい前頭蓋底腫瘍(青丸部)が取り除かれているのがわかります。
鍵穴手術という発想自体は顕微鏡時代からありましたが、小さい穴で頭の外から観察すると死角ができやすく、普及しませんでした。
しかし内視鏡を用いることにより、小さい開頭サイズからでも大開頭手術以上の良好な深部視野が得られるようになり、低侵襲性と安全性の両立が可能な手術として生まれ変わりました。「見える」ことにより操作の確実性を高めるとともに、脳への圧迫も軽減することができますので、見た目の創の小ささだけではなく、脳・神経にやさしい真の意味で”低侵襲手術”と言えるでしょう。内視鏡下鍵穴手術はとてもスマートな手法ですが、小さい開頭に内視鏡を入れ機器の干渉を避けながら顕微鏡手術と同じ微細操作を行うには開頭顕微鏡手術と内視鏡手術の双方に深く習熟する必要があるため、行える施設はかなり限られます。
経鼻内視鏡手術:開頭せずに頭蓋底部病変に対応
頭を切らず、鼻の空間を利用して頭蓋底部病変の手術を行います。鼻の穴から手術を行うため、見た目にはキズができません(図4) 。

開頭手術では、脳挫傷や嗅覚障害、おでこの陥凹、死角による腫瘍の取り残しなどが問題でしたが、経鼻内視鏡手術では鼻腔から直接病変に到達するため、脳には一切触らず、深部の視認性も格段に向上しました。内視鏡の特性が最大限生きる手術法であり、現在では頭蓋底腫瘍に対する重要な手術選択肢になっています。
まとめ
今回は当院の特徴であり、脳神経外科で急速に発展してきている神経内視鏡手術についてご紹介しました。
今回例示した鍵穴手術、経鼻内視鏡手術のほかにも1.5cmほどの脳切開で脳内操作を行うチューブリトラクター手術や軟性鏡手術など内視鏡手術にはいくつもの手法があり、腫瘍、血管障害、外傷、さらに三叉神経痛や顔面けいれんなどの機能性疾患まで、その応用範囲が広がっています。
東京Dタワーホスピタルでは高精細内視鏡や顕微鏡に加え、ナビゲーションシステム、神経モニタリングなど安全性を高めるための機器や人材を揃えています。
頭部疾患に対する治療を要する場合は、当院で質の高い医療をご提供いたします。
この記事を書いた人
岸田 悠吾
Yugo Kishida
東京頭蓋底・内視鏡センター:センター長
専門分野:神経内視鏡手術、経鼻頭蓋底手術、微小血管減圧術、低侵襲手術(内視鏡下鍵穴手術)
神経内視鏡手術(経鼻手術、鍵穴手術など)を専門としています。15年以上、1000件を超える神経内視鏡手術の経験の中で、確実に手術目的を達成すること、合併症リスクを最小化することに努めてきました。
「とにかく丁寧で、脳と体に負担の少ない、美しく正確な手術」を心がけています。

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