心房細動について

Atrial Fibrillation

<目次>
 ・はじめに
 ・心房細動とは?
 ・脳梗塞になる理由
 ・心房細動の検査
 ・アップルウォッチを使用した心房細動の診療
 ・心房細動の治療 
 ・アブレーション治療
 ・まとめ

はじめに

皆さんは不整脈と聞いてどう思われるでしょうか?


実は、とても多くの方が脈の不整をお持ちです。もちろん、そのほとんどは病的ではないため、心配することはありませんが、不整脈=“脈の不整“は意外と身近にある現象です。

心臓の動きは心臓に流れる電気によって制御されています。洞結節という場所から発電された電気が右心房から左心房へ、その後房室結節という電気の通り道を経て心室に伝わります。洞結節で発電される間隔はほぼ一定ですが、心臓は1日に約10万回も動いているので、たまに誤作動を起こします。【図1】



【図1】心臓の中の電気が流れる経路

誤作動が起きても、ほとんどの場合は心臓の機能などには問題がないですが、病的な不整脈となってしまう方もいます。ここでは、よく見られる病的な不整脈「心房細動」についてご説明します。


心房細動とは?

心房細動は、心房周囲に異常な電気が発生することで、小さな電気が渦のようになり、1分間に約400回も心房が細かく震える不整脈です(健常の方は1分間に60-100回)。【図2】


【図2】
(A)肺静脈の中で異常な電気が発生し、左心房にその電気が流れ込む様子
(B)流れ込んだ異常な電気が原因で、心房にたくさんの電気の渦が生まれ、心房細動になる様子


皆さんが感じる脈は、心室が収縮することで生じます。心房細動になると、心房から心室に無秩序に電気が流れます。心房と心室をつなぐ房室結節で、電気の流れを制御できるため、心室が1分間に400回も動くことはありませんが、心室も速く、不規則に収縮し、脈の不整を感じます。この病気は日本では約130万人の患者がいるとされ、高齢化に伴い患者数は増加していますが、若い方にも認められる病的不整脈です。

心房細動の主な症状は、動悸、めまい、息切れ、倦怠感です。直接的に死亡の原因にはなりませんが、脳梗塞や心不全を引き起こしやすいため、適切な治療が必要な病気です。


脳梗塞になる理由

心房細動では、心房が収縮せず“痙攣“しているため、心房内で血流が淀み、血栓を形成しやすくなります。ちょっとした拍子に心房が収縮すると、血栓が血流に乗って全身に飛び、動脈を詰まらせる、血栓塞栓症が起こります。脳の血管が詰まると、心原性脳塞栓症と呼ばれる脳梗塞を発症します。心原性脳塞栓症のダメージは、動脈硬化性の脳梗塞と比べて発症が極めて短時間かつ広範囲なことが多いため、半身麻痺など機能障害が重症化しやすく、命を落とすこともあります。


心房細動の検査

心房細動は心電図検査で診断します。症状がないまま、脳梗塞などの塞栓症となって発見されることも珍しくありません。発作性の心房細動については、24時間連続して心電図を計測するホルター心電図を用います。中には7日間以上連続観察が可能なものもありますが、それでも心房細動を100%燻し出すことはできません。最近ではアップルウォッチなどに搭載されている心電図を測定する機能を使って、ご自身で心房細動を見つける方もいらっしゃいます。日本では規制によって医療器具としては認められていませんが、診療では参考になります。


アップルウォッチを使用した心房細動の診療

アップルウォッチには脈波を測定するプログラムや、実際に心電図を記録するプログラムが搭載されており、心房細動を検出して利用者に通知できる機能があります(注)。ただし、アップルウォッチからの通知だけでは、心房細動やその他の不整脈を見逃す可能性があるため、循環器内科医に通知結果や記録された脈波や心電図の記録を見てもらうことが大変重要となっています。当院ではアップルウォッチで記録されたデータを元に、心房細動をはじめとした不整脈の精密検査や治療が必要かどうかを判断するアップルウォッチ外来があり、医療機関で何度も検査を行う必要もなく、効率的に診察を受けることが可能です。


アップルウォッチ外来に関するご相談


心房細動の治療

塞栓症予防:脳梗塞発症のリスクがある患者さんには、血液を固まりにくくする抗凝固薬を内服して予防します(抗凝固療法)。私たちは脳梗塞発症のリスクを患者さんごとに評価して予防治療の適応を決めています。

正常拍動への復帰と維持:症状の緩和や心不全のリスクを低減させるため、心房細動自体を治療し、正常拍動を維持する治療をリズムコントロールといいます。リズムコントロールには、抗不整脈薬とカテーテルを用いたアブレーション治療の二つの治療があります。抗不整脈薬は手軽ですが、一時的には発作を予防できても、心房細動の進行を抑えることはでません。加えて高齢の方には副作用が問題になってきます。アブレーション治療は発症早期であれば根治も期待できる有効な治療法です。一方、年齢や全身状態などにより、リズムコントロールが難しい方には、心拍数を薬によって抑えて心不全予防や症状軽減を目指す治療法(レートコントロール)を提案する場合もあります。


アブレーション治療

心房細動の原因となっている部分を、カテーテルを用いて心臓の内部から焼き切る治療です。初期の心房細動は、約90%が左心房に繋がっている肺静脈という血管の異常な電気興奮によって引き起こされるので、肺静脈の出口を囲むようにアブレーションする肺静脈隔離術で、心房への異常興奮が遮断され、心房細動を抑制できます。【図3】

【図3】アブレーション後の左心房の様子です。赤い点はカテーテルを用いて実際に焼灼した場所を示します。赤い点が連続して線状になっており、4本の肺静脈(左右2本ずつ)が囲まれています。これによって肺静脈の中から発生する異常な電気が左心房に流れ込むことがなくなります。


アブレーション治療では、カテーテルが心臓のどの場所にあるか、そしてカテーテルで感知する電気信号がどのようなものであるかを正確に把握することが求められます。そのため治療の際には、リアルタイムにその両者を把握し、三次元的に描き出す3Dマッピングシステムを用います。【図4】。最近の急激な技術の進歩により、かなり正確に両者を再現できるようになり、私たち不整脈医の大きな助けになっています。


【図4】3Dマッピングシステムを操作している様子です(一番左の画面)。心臓の中にあるカテーテルの位置が三次元的に描出されています。


アブレーション治療は、自覚症状を軽減し、生活の質を向上させる効果があります。根治性の高い発症初期に治療することが理想ですが、3年以内の持続期間内であれば成績は良好です。それ以上の持続期間でも、若い時から続いている方では有効の場合がありますし、心臓の外部からの電気的遮断を追加する方法(ハイブリッド治療)を展開することも海外では始まっています。

まとめ

心房細動を発症しても、現在の医療で脳梗塞の予防や治療が適切にできます。当院では、心房細動の診断・治療・予防に関する専門的な知識と経験を持った医師が、患者さん一人ひとりの状況に応じた最適な治療を提供しております。心房細動に限らず、脈の不整を感じたら、遠慮なくご相談ください。


医師紹介

循環器内科
寶田 顕

Takarada Ken
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